抹茶な風に誘われて。

Ep.7 依頼

 してやられた、というのがまず初めに浮かんだ感想だった。

 子供だからとタカをくくっていた自分に苛立つ。全ては計画の上だったのだ。

 あの時、かをるを抱きしめてみせた『余裕』の意味はこういうことだったというのか。

 白井ガーデングループが急速な成長の影であれこれ表立っては言えないような手段も使ってきたことなど、とうに調べがついていたのに。

 まさかここまでして、堂々とかをるを手に入れようとするとは考えていなかった。

 ぎり、と唇を噛む。同時に握っていた拳で畳を打った。

 京都での対面から、電話はもちろん店へ行っても姿を見せない。

 学校へは通っているらしかったが、アルバイトは休んでいるようだった。

 誤解を解くことなど簡単なはずだと思っていたのに、こうも頑なに避けられてしまうとその手段さえなくなってしまうことを知った。

 ――ああいう生真面目な子は、切羽詰ると何をするかわからないからねえ。

 ハナコの声が頭の中に蘇る。

 もともと自分の過去の女性関係を本当の意味で突きつけられたり、それ以前に無理やりに想いを遂げようとされたりと、かをるにとっては傷心の極みだったはずだ。

 それに、両親の墓を目にしてきた後でのショックはより大きかったのかもしれない。

 どうせあの男にまた余計なことを吹き込まれて、綾子との復縁でも疑い、いや信じてしまったのだろう。

 そもそもあんなタイミングで彼女に再会したところからして、仕組まれていたのだとわかったのは、他でもない綾子本人からの電話だった。

< 273 / 360 >

この作品をシェア

pagetop