抹茶な風に誘われて。
「馬鹿みたい……」

 呟くのは、自分への戒め。あんな風に実際に見てもまだ、信じられないのだ。

 静さんが他の女性を選ぶなんて――あの優しいグレーの瞳が、私を映さないなんて嘘だと心が叫んでいた。

『ほら、だから言っただろう?』

 どこか誇らしげに聞こえた、アキラくんの声。

 あの日、迷った挙句について行くことにした私をずっと説得し続けていた彼の。

 大人で魅力的な静さんからしてみれば、女性なんてそもそもよりどりみどりで、私とのことだって単なる気まぐれに過ぎない。

 お遊びで、純粋な女子高生をからかっているだけだ、と断言していたアキラくん。

 ずっと否定し続けたけれど、本当は心の中にどす黒いものが少しずつ少しずつ湧き出していて、あの時爆発してしまったのだ。

 写真に映った綺麗な大人の女性。

 五十枚以上あった中で、一番目を引いたあの人が、静さんの『初恋』の人だと聞いていたから。

 どうやって調べたのかは知らない。

 けれどアキラくんが話す二人の過去は、想いあっていたのに上京のために別れた、というものだった。

 全てが事実ではないかもしれない。

 でも、目が合った瞬間に静さんの瞳によぎった確かな動揺は、私を闇の底へ突き落とした。

 たった一つ、私を照らしていたのは――。

「またそれ見てるのね、かをるちゃん」

 突然部屋に響いた声で、はっと起き上がる。

 あわてて流れていた涙を拭うと、葉子さんが遠慮がちに微笑んだ。
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