抹茶な風に誘われて。
「……ごめんね、ノックしたんだけど返事がなかったから」

「い、いえ。大丈夫です」

 必死で繕った笑顔が失敗に終わったことは、葉子さんの悲しげな瞳でわかる。

 どうすればいいかわからなくて俯くと、さっき眺めていたダイヤの指輪がきらりと光った。

「――何かあったんだなってことはわかってるの。それも、お母さんたちのことだけじゃなくって、一条さんとの間ですごく悩むようなことが。そうでしょう?」

 動揺は隠せなくて、浮かべた表情はきっと泣き笑いに近いものだっただろう。

「葉子さんにはかないませんね」

 苦笑して答えると、「いいえ」と葉子さんが首を振った。

「私だけじゃないわ。主人はもちろんのこと、あなたのお友達の二人だって、それに亀元くんとあの賑やかなご友人たちだって心配してかわるがわる来てくれていたのよ」

 学校以外は部屋に閉じこもっていたこの数日、まさかみんながそこまで心配してくれていたなんて思わなくて――たちまち顔がゆがんだ。

「ごめん、なさい……私」

「ほら、また謝る。そうやって自分を責めるから、みんな言わなかったのよ? どんなことがあったのか知らないけれど、付き合っている二人なんだからケンカだって両成敗。二人にそれぞれ責任があるもんなの。だから、どちらか片方ばかり責めていたって何も解決しないわ」

 あふれる涙が言葉を奪う。胸がいっぱいで、複雑な感情がひしめきすぎて声にならなかったのだ。

「でもね、かをるちゃん。何も知らないあたしでも、これだけは断言できる」

 私の震える肩にそっと置かれていた葉子さんの手が、輝く宝石の花をすっと取り上げる。

 そのまま私の薬指にはめてくれた後、丸いメガネの奥でいつものように優しく笑った。
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