抹茶な風に誘われて。
「この指輪に込められたあの人の想いは、決していいかげんなものじゃない、って。本当はかをるちゃんだって、わかっているんじゃない――?」

 細い指に合わせたのだと、特別に注文してくれた指輪。

 五つの花びらが美しいフォルムを形作るデザインは、言葉にはしなかったけれど、きっと花が好きな私を想って頼んでくれたもの。

 私はよく知らなかったけれど、このブランドに花のデザインはないとハナコさんや香織さんが教えてくれたのだ。

 そしておそらくこれが、静さんが女性に贈る初めての指輪だということも――。

 そうだ、どうして忘れていたんだろう。

 縛られることが嫌いな静さんがまさか決断するなんてと、ハナコさんが感慨深げに語っていたこと。

 どんなに女性と関係を持っても、楽しそうに笑うところは見たことなかったと、亀元さんが呟いていたこと。

 それより何より――静さん本人に、まだ何一つ確かめてもいなかったことを。

 勝手に悩んで落ち込んで、泣いていたって何も解決しないのに。

 ズキン、と痛んだ胸は、自分自身への苛立ちと、情けなさのせい。

 本当はずっと、声が聞きたかった。あの瞳が見たかった。

 けれどどうしても離れなかったのは、静さんの過去。

 私の大好きな瞳で他の女性を映し、かりそめとはいえ愛の言葉を囁き、その手で彼女たちに触れたのだという現実が、想像以上に私の心を切り裂いていた。

 何も知らなかった頃には実感がわかなかったことが、今は苦しくてたまらなかった。

 幼い恐怖と不安なんかで拒絶してしまった私のことを、静さんがどう思ったのか。

 怯えて逃げてしまった私なんて、もう必要としないんじゃないかって――。

 私、本当に馬鹿だ。静さんがそんな人じゃないってこと、知ってるはずなのに。
< 278 / 360 >

この作品をシェア

pagetop