抹茶な風に誘われて。
涙をきつく拭って、顔を上げた時にはいつの間にか葉子さんはいなくて。
夕日が差し込んできた窓の外を眺めて、私は瞳を見開いていた。
いつも静さんが立ち、帰りつく私を見守ってくれていた曲がり角に、人影があったのだ。
目が合った瞬間驚いたように瞬きをして、それでも微笑んでくれた女性に、あわてて会釈をした。
お店を出て、少し行った先にある古びた喫茶店。
マスターのおじいさんが一人でやっているひっそりとした空間で、私は見知らぬ――いや、会うのはこれで二度目になる女性と向き合っていた。
ゆるやかなウェーブがかかった肩までの髪、上品で洗練された服装に負けない美しい微笑。
コーヒーを飲む手つきもどことなく優雅で、彼女の家柄の良さも見て取れた。
「突然会いに来たりして、ごめんなさいね」
ふふ、と笑ってみせる態度は親しみやすいもので、つい首を横に振ってしまう。
「私、西園寺綾子といいます。もしかしたら、もうご存知かもしれないけれど」
小首を傾げて呟く綾子さんに、また首を振る。
でも今度のは嘘だ。本当は彼女の名前も、そして家柄もアキラくんに聞いて知っていた。
京都で有数の資産家の娘。華道や茶道にも子供の頃から親しんでいて、その点では静さんとよく似た境遇にあった。
ただ一つ、彼女はれっきとした本妻の子であったことだけを除いて。
夕日が差し込んできた窓の外を眺めて、私は瞳を見開いていた。
いつも静さんが立ち、帰りつく私を見守ってくれていた曲がり角に、人影があったのだ。
目が合った瞬間驚いたように瞬きをして、それでも微笑んでくれた女性に、あわてて会釈をした。
お店を出て、少し行った先にある古びた喫茶店。
マスターのおじいさんが一人でやっているひっそりとした空間で、私は見知らぬ――いや、会うのはこれで二度目になる女性と向き合っていた。
ゆるやかなウェーブがかかった肩までの髪、上品で洗練された服装に負けない美しい微笑。
コーヒーを飲む手つきもどことなく優雅で、彼女の家柄の良さも見て取れた。
「突然会いに来たりして、ごめんなさいね」
ふふ、と笑ってみせる態度は親しみやすいもので、つい首を横に振ってしまう。
「私、西園寺綾子といいます。もしかしたら、もうご存知かもしれないけれど」
小首を傾げて呟く綾子さんに、また首を振る。
でも今度のは嘘だ。本当は彼女の名前も、そして家柄もアキラくんに聞いて知っていた。
京都で有数の資産家の娘。華道や茶道にも子供の頃から親しんでいて、その点では静さんとよく似た境遇にあった。
ただ一つ、彼女はれっきとした本妻の子であったことだけを除いて。