抹茶な風に誘われて。
 ――なんだ、面白くない。

 考えてみればもちろん、バイトなら帰った時間かもしれない。

 けれどなぜかあの少女の透明で、どこか勝気な眼差しがまた見られるような気がしていたからだった。

 店じまいなのか、外に置いてある鉢植えの類を片付け始めた中年女性にちらりと見られ、ごまかすように視線をやった先にあったのは、ガラスに貼られた張り紙。

『ご自宅用も配達いたします。少量からでもご相談ください』と書かれた文字だった。

 いつも利用する大型の花屋ではやっていないサービスだ。

 おそらくこういう地元の小さな花屋ならではといったところだろう。

 茶花には困ってはいない。けれど――。

 ふと思いついたそのひらめきに、思わず笑みが浮かんでくる。

 そうだ、やってみたら面白いかもしれない。

「葉子さん、裏の掃除終わりました!」

 その瞬間、背後から響いた声に振り返ると、そこにいたのは華奢で小柄な女――セーラー服とは違って、私服に店のものらしいグリーンのエプロンをつけた、あの少女だったのだ。

「あ――」

 今度は少女が驚愕に瞳を見開く。

 俺は少し驚いたふうを装い、いつものように唇の端に笑みをのせた。

 さあ、見せてもらおうか。

 今日が三度目。

 では四度目の再会は、彼女をどんな風に変えるのか。
 
 そして俺をどうやって楽しませてくれるのか。

 ――退屈だったんだ。

 ほんの遊びのつもりのこの気まぐれを、俺は後で後悔することになるのだが……この時は知る由もないことだった。

「やあ、おちびちゃん。また会えたな」

 そんな挨拶から始まった会話を、俺はただ楽しんでいたのだ――あくまでも、この夜は。
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