抹茶な風に誘われて。

Ep.9 動機

 明け方まで漫然として眠れなかった私は、次の日クラスメイトのみんなとバスで空港に向かっていた。

 とてもそんな気分じゃなかったけれど、この日のためにせっかく葉子さんたちが頑張って積み立ててくれた旅行代も、二人の優しさも無駄にするわけにはいかないから。

 四泊五日の修学旅行、それはちょうど静さんと私の両方に考える時間を与えてくれるようにも思えた。

「かをるちゃん、これ食べる?」

 清涼タブレットを手渡してくれる咲ちゃんに、お礼を言って微笑む。

 ちゃんとひきつらずに笑えているか自信はなかったけど、その隣ではしゃぐ優月ちゃんは楽しそうに話題を振ってきた。

「ホン様撮影地、楽しみだよねーっ? かをるちゃん!」

「あ、う、うん。そうだね」

 本当はその人が誰で、どんなドラマに出ているのかも知らなかったけれど、嬉しそうな笑顔に頷く。

 辟易とした様子の咲ちゃんがため息をついた。

「あーあ、結局優月の好みで決まっちゃったしね。あたしも韓流とか興味ないのに。どうせならアウトレットショッピングツアーが良かったな」

 三日目の自由行動のオプション。

 それだけは生徒たちが班ごとに選ぶことになっていて、張り切って班長を引き受けてくれた優月ちゃんによって早々と決められたのだ。

 私からすればどちらでもよかったんだけど、買い物好きな咲ちゃんはすごく残念そうにしていた。

「いいじゃん、ショッピングなんて日本でもできるって。それに一応今日ミョンドンには行くんだし、そこでも色々店あるしさ」

 中学の卒業旅行で一度韓国を訪れたことのある優月ちゃんは、訳知り顔でパンフレットを見せてくる。

 ミョンドンというのはどうやらソウルで一番賑わう、メインストリートみたいな場所らしかった。
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