抹茶な風に誘われて。
「あー頭使ったら疲れるからやめやめ! ウンチク披露はここまでにして、一緒に回ろうか」

 どさくさに紛れて肩を抱こうとするから、あわててその腕から抜け出す。

「私は、咲ちゃんたちと回るから……」

「またーそんな冷たいこと言わないで、俺も混ぜてくれよ」

 言い募る軽い口調はいつもと変わりないもので、さっきまでの真面目な顔が嘘みたいだった。

 何やらここでも撮影があったとかなんとか言って盛り上がっていた優月ちゃんが、私たちのやりとりに気づいてすぐに駆け寄ってくる。

「まーたやってんの、かをるちゃんはあたしたちと回るからダーメ! ほら、あんたにはあっちの女の子たちがいるでしょ?」

「えーあいつらうるさいから苦手なんだって。いいじゃん、俺も同じ班だろ?」

「残念でした。今は班行動じゃないもん。全員で見学だから、自由でいいんですー!」

「それなら俺だって自由……」

「だからあんたはあっち!」

 半ば無理やり追い出された形で渋々アキラくんが去っていくと、私も咲ちゃんたちと連れ立って見学を始めた。

 明るい日差しの下で、のんびりと散策していくうちに、いつしか頭に浮かぶのは残念な思い。

 ――静さんと一緒だったらもっとよかったのにな。

 正直な感想。

 それはやっぱりいつも同じで、綺麗な風景も静さんが隣にいてくれないと魅力が半減するような気がしてしまう。

 この美しい古宮跡も、壮大な山も、異国の雰囲気も、全部共有したかった。

 ――静さん、お父様に会いに行ってくれただろうか。

 昨日、帰りの車ではずっと黙っていたから、彼がどういう決断を下すのかはわからない。

 それでも、きっと静さんならわかってくれると心の中では信じていた。
< 298 / 360 >

この作品をシェア

pagetop