抹茶な風に誘われて。
 真夏の夕方、突然いなくなったあの人は、手折った夕顔の花と一緒に、私の希望も持ち去ってしまった。

 あれは私が八歳の夏休み。

 施設ではない場所で過ごした初めての夏だった。

 そんなことなら連れ出してくれなくてもよかったのに。

 夢を見させないでほしかったのに。

 いつも訪ねてくれる優しいおじさんは、お別れも言わずに行ってしまった――花なんて触ったこともないアキラくんを連れて。

 短い夏を過ごしたキャンプ場から帰った、その翌日のことだった。

 経営していた造園会社が移転したからだとか、そういう大人の事情なんてその時はわからなくて。

 ただ裏切られたようにしか思えなかった。

 なぜ、私に優しくしたの。

 なぜ、期待させたの。

 しばらくはそうやって恨んだ。

 自分を連れて行ってくれなかったことが悲しくて、悔しくて、辛くて……何度も泣いた。

 
< 30 / 360 >

この作品をシェア

pagetop