抹茶な風に誘われて。
 おじさんからの手紙、アキラくんとの再会、静さんの過去、それに一番はお父様との確執――。

 十年以上も顔を見ていないという、そこに秘められた静さんの感情はやっぱり怒りなのだろうか。

 詳しい事情はわからないけれど、それがお母様を亡くしたことがきっかけらしいということは想像できた。

 でも、過去に何があったとしても実の父親が病の床にいるというのなら、やはり会って話をするべきじゃないかと思う。

 ううん、会いたいと――自然に思ってしまうのが親子じゃないのかな。

 ふう、とため息がもれて、私は首を振った。

 静さんが決めるべき問題に、自分がこれ以上口を出すべきではないのはわかる。

 だから、私にはそっとこうして祈るぐらいしかできることはないんだ。

 ――静さんが、どうか後悔しない選択をしてくれますように。

 窓を開くと、肌寒い風が吹き込んでくる。

 けれど島の海風は心地よくて、吹かれるままに私は夕日を見つめていた。

 きらきら光る水面に反射するオレンジ色。

 ゆっくりと空が暗くなり、闇の帳が落ちていくのをぼんやりと眺めながらいつしか、私は眠りに落ちていた。



 どれくらい時間が経ったのか、キイ、と扉が開く音に目を覚ました。

 いつの間に寝てしまったんだろう――そう思いながら、なんとなく体がだるくてベッドから起き上がれなかった。

「……咲ちゃん?」

 声だけかけたけれど、入ってきたのが誰なのか部屋が暗くてわからない。

 賑やかな優月ちゃんの声もしないから、一人で帰ってきたのかと思ったのだ。

「優月ちゃんは……まだなの?」

 訊ねてから、窓から吹き込む冷たい風にぶるりと震えた。

 そうか、開けっ放しだったんだ。

 ついでに扉にももちろん鍵なんてかけていなかったけれど、帰ってきたのが二人のうちどちらかだと疑ってはいなかった。

 だから、やっとベッドの上で身を起こした時、目をこする自分にかけられた低い声にすぐ反応できなかった。
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