抹茶な風に誘われて。
 ――まさか、そんな。

 月並みな単語だけが浮かぶ。

 まだ事態が飲み込めないでいる私を嘲笑うように、アキラくんが淡いスタンドの灯りに照らされて唇をゆがめる。

「ここなら、愛しの『静さん』にも邪魔されないし、舞台は完璧に整ったってわけだ」

 そう低く呟いて、声も出せないでいる私をいきなり後ろに突き飛ばす。

 どさり、とベッドに倒れこんで、起き上がる暇もなく押し倒された。

「さようなら、清らかで優しい俺の『かをる』――」

 震える私の両手首を押さえ込んで、アキラくんが囁く。

 怖いくらいに真剣な目に見下ろされて、私は乾いた喉から悲鳴を搾り出していた。
 
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