抹茶な風に誘われて。
「心配すんな。お前の『静さん』には及ばないかもしれないけど、俺だって結構上手だと思うぜ? ほら、力抜いて――」

「あ……あなたと静さんを一緒にしないで!」

 無意識に叫び返していた。

 理由がどうであれ、彼がやろうとしていることはあきらかに間違っているのだと訴えたかった。

「静さんは――あなたなんかとは違うんだからっ!」

 涙目に震える声。

 とても訴えるにはほど遠い醜態だけれど、それでも許せなかった。

「はっ――なんだ、そうだったのかよ」

 突然おかしそうな笑い声をもらす。

 目を剥いて見上げた私の前で、アキラくんはなぜか楽しそうな色を瞳に宿していた。

「まだ手も出してなかったのか、あいつ。さすがにそこまでは興信所でも調べられないからなあ」

 何を言われているのかわかって、かっと頬が熱くなる。

 恐怖も怯えも遠ざかるほど、心の底から怒りが込みあげた。

「どうして……アキラくん、一体どうしちゃったの!? 正気じゃないよ、こんなの!」

 押さえつけられた両手首を必死で離そうと暴れる。

 無駄だと冷たい瞳を向けて、アキラくんが笑う。

「正気……? そんなものとっくになくなってるさ。お前にこんなことしようって言うんだからな」

 更に深くベッドに沈められて、抵抗も奪われて――あらわにされた胸元にアキラくんの顔がおりてくるのを呆然と見つめた。

 私の手首を押さえつけているのとは反対の手が、体のあちこちを撫で回す。

 その手つきは乱暴というよりもむしろ優しかったけれど、背筋が凍えた。

 ――違う……こんなの。

「違う……静さんじゃない!」

 叫んだ途端、涙があふれた。されていることは同じはずなのに、体温が違う。匂いも違う。触り方も、唇の当て方も、何もかも――。

 そう、込められた想いがまるで違うのだと、本能的に体が拒絶した。
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