抹茶な風に誘われて。
 一瞬力がゆるんだ隙をついて、必死で腕の中から抜け出す。

 舌打ちと共にもう一度捕まえようとするアキラくんに、思いきり叫んでいた。

「こんな――こんなことして、おじさんに恥ずかしいと思わないの!?」

 無意識に浮かんだ言葉を投げつけた私の前で、ただ冷たかった瞳が凍りついた。

 ゆっくりとゆがんでいくアキラくんの顔は、先ほどまでとは違う、強い怒りに満ちたものだった。

「恥ずかしい……? 望むところだよ!」

「アキラく――」

 かけようとした声は、途中で掻き消える。

 荒々しくそばにあったクッションを床に投げつけ、アキラくんが叫んだのだ。

「俺を養子に選んだこと、とっくにあいつは後悔してるんだからな。お情けで面倒を見てるんなら、こっちから願い下げなんだよ! だから失望させて、見切りを付けさせてやるのさ。あの優柔不断のオヤジにな――!」

 逃げればよかったのに、なぜか動けなかった。

 ただ無意識に引き寄せた毛布を胸まで引き上げて、ベッドの上で固まっていた。

 それほど、アキラくんのぎらぎらした瞳が怖かったのだ。

「アメリカに連れて行ってからにしようと思ってたけど、もう時間がない。何をやっても、いつまでも騙されてもくれないお前には苛々させられたけど――かえってちょうどよかったのかもしれないな。俺が捨てた血を生んだこの国で、お前を……オヤジの大事にしていた『かをるちゃん』を汚してやれるんだから」

 独り言のように呟いて、ぎしりとベッドによじのぼってくる。

 見知ったはずの顔が、まるで知らない男の人に見えて。

 アキラくんが、ぞっとするような低い声で耳元に囁いた。

「――滅茶苦茶にしてやる」

 向けられているのがまぎれもない憎しみなのだとわかった、その瞬間。

 ぎゅっと目を閉じて、私は叫んでいた。今、一番会いたい人の名前を、声の限りに――。

「助けて……静さんっ……!」
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