抹茶な風に誘われて。
 *


 悲鳴が聞こえた瞬間、扉を蹴破っていた。

 振り向いた男の肩を掴んで、かをるから引き離す。

「お前……っ!」

 目を剥いた男が続きを言う前に、その体を床に突き飛ばしていた。

 起き上がろうとする奴の胸倉を掴み、怒りのままに睨みつける。

「――かをるに何をした」

 自分でも恐ろしいぐらいに、低く響いた問い。

 瞬間、ベッドから降りたかをるの姿が目に入る。

 薄手のワンピース一枚の、胸元が引きちぎられた無残な格好で、頭に血が上った。

「何をしたか、知りたいか?」

 胸倉を掴まれたままニヤリと笑ってみせる男の頬に向かって、拳を振り上げる。

 寸でのところで命中しなかったのは、後ろからしがみつかれたからだった。

「静さん、だめっ……!」

「かをる、離せ」

 低く告げても、首を必死で振って離さない。

 乱れた髪と服の裾を見た俺は、男を殴りつけるべくかをるを振り払おうとした。

「静さん、違う――何もされてません! 私は……私の体に触れるのは、静さんだけです!」

 信じてください――搾り出すような声で言って、俺の動きを止めようとする。

「これでアキラくんに乱暴したら、静さんもアキラくんと同じ過ちを犯すことになるんです!」

「……かをる」

 あいもかわらず甘い、呆れるような正論。

 それよりも必死な瞳に力をそがれた。

 死ぬほど痛めつけてやらなければ気が済まない――そう思った相手を、仕方なしに解放する。

 途端、笑い声が響き始めた。
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