抹茶な風に誘われて。
 通された部屋は立派な和室で、着物のお手伝いさんがしずしずと日本茶を置いていく。

 古木でできた座卓に置かれたお茶菓子にも手をつけず、静さんはただまっすぐ前を見て待っていた。

 ほどなく静かな音を立てて襖が開かれ、こげ茶色の着物を着た男の人が姿を見せた。

 あわてて腰を浮かせ、お辞儀をする私をちらりと見たその人が静さんのお父様であるのは、見た瞬間すぐにわかった。

 白いものが混じった髪や皺の刻まれた肌の色、そしてもちろん私たちを映す瞳の色は日本人特有のものだけれど、それ以外は――そう、静さんが年を重ねたらこうなるのだろうか、と思ってしまうぐらいに整った顔立ちをしていたのだ。

「……あなたが、九条かをるさんだね」

 一瞬だけ向かいの静さんと瞳を合わせてから、静かに私を見つめる。

「私は一条時定、静の――父親です」

 はっきりと言われた単語に、びくりと隣で肩を震わせる静さん。

 その瞳は静かなままで、感情を全く読ませないものだった。

「あ、あの……かをるです。お初にお目にかかります。え、えっと……」

 何を話せばいいのか、色々道中考えてはきたのに、その瞬間全部飛んでしまった。

 頭が真っ白な中を懸命に考えて、それから当然のことを思い当たった。

「お加減のほうは――起き上がっておられて、大丈夫なのですか……?」

 末期の癌だというのだから、当然いいはずなんてない。

 病床にある方をお見舞いに行くのだとばかり思っていたから、自分できちんと歩いてこられたことにまず驚いてしまったのだ。

「ああ、普段は寝ているのだがね。今日は加減がいいものだから」

 静さんとよく似た低音の深い声が、にこやかに答える。

 それは客人としての私に対するものなのか、静さんの婚約者という立場にある私に対するものなのか――全く想像していた否定的な感情は見せずに微笑んでくれるお父様をただ見つめた。
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