抹茶な風に誘われて。
「ふふーん。昨日会ったばっかりなんだ。で? ねね、どんな出会い? 暴漢に襲われてたところをひらりと現れたあの人に助けられたとかさ、それとも街で偶然ぶつかったあの人のボタンにかをるちゃんの髪がひっかかって、『あっ、ごめんなさい』『いや、いいんだよ。僕の心に君も引っかかっちゃったな』なーんちゃってやだー!!」

「違います! 昔の少女漫画じゃあるまいし……それにあの人、着物だったでしょう。ボタンなんてどこにあるんですか!」

 暴走していく言葉を止めて言い返すと、葉子さんは子供のように口をとがらせてみせた。

「えーつまんない。じゃあ普通にナンパとか? それともかをるちゃんの一目惚れだったりして」

「だから違いますってば! そういうんじゃなくって、ただちょっと話しただけですから」

「話したって何を何を? ねえ、教えてよーかをるちゃん!」

「何でもないですってばー!」

 追いかけてくる葉子さんから逃げる私。バタバタと追いかけっこをしてたら、リビングにいたおじさんが見かねたように間に入ってくれた。

「こらこら葉子、いいかげんにしないと困ってるだろう。ほら、かをるちゃん、もういいからお風呂に入っといで」

 ひげを撫でながら優しい微笑を送ってくれるおじさんにお辞儀して、私はバスルームに逃げ込んだ。

「あーっ、まだ話は終わってないのにっ。もうあなたったら! かをるちゃんの味方ばっかりしてえっ」

「いくらかをるちゃんが可愛くてたまらなくても、あんまりやりすぎると嫌われちゃうぞ、葉子。ほらほらお茶でも飲んで」

 閉めたドアの向こうから聞こえる二人の会話に笑って、私は結んでいた髪をほどいた。
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