抹茶な風に誘われて。
 茶道をやってて、着物を着こなしてて、でも純粋な日本人じゃなくて、謎だらけの人。

 お仕事は何をやってるんだろう。

 どうして茶道を始めたんだろう。

 いつから、この街に住んでいるんだろう――。

 なぜかわからないのに、色々な疑問が浮かんでは消えていく。

 話し方も、仕草も、すごく自信たっぷりな、大人の男の人。

 どうして、私に――?

 首筋に冷たい水滴がかかって、思わずびくっとした。お風呂場のデジタル時計が、もう十時を回っていた。

「いけない、のぼせちゃう」

 脱衣所の鏡に映る、赤い頬の自分を見て、私はなんだか恥ずかしくなった。

 私、何をそんなに考えてるんだろう。

 気がつけばあの人のことばかり――。

 さっきの葉子さんの言葉が蘇ってきて、濡れたままの頭を振った。

 ただ、今まで会ったことないような人だから。それだけだ。

 どんな人かも知らないのに。

 会ったばかりの人に、恋だなんて……そんなはずない。

 そんなはず、ないんだから。

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