抹茶な風に誘われて。
「で、でもそんなこと望めないからって私……いっ、いえ別にあきらめてたとかってことじゃなくて、本当に――!」

 自分でも言い訳じみていることはすぐにわかる。

 だからもう何も言えなくて――それでも譲れない一線を思い出して、頭を振った。

「そっ、そんなのだめです! 静さんに進学費用を出してもらうのだけは、いくらなんでもできません! 私、自分のことは自分でって決めてて――」

「……誰が出してやるなんて言った?」

「――えっ? ち、違うんですか? だったらなおさら私……!」

「だから、話は最後まで聞けというんだ」

 苦笑した静さんが、すっと立ち上がって戸棚から何かを取り出す。

 茶封筒に入っていた書類らしきものを見せられても、事態が飲み込めずにいた。

「……気軽に抹茶が楽しめる、和洋折衷の空間。おいしいお茶菓子とお抹茶に彩を添えるのはお花のアレンジ。販売も可能――? 何ですか? これ」

 フロアのデザイン画が描かれた、チラシのようなものに書かれた文章を読み上げる。

 抹茶や和菓子が載っている写真の横には、色とりどりのお花たち。

 それは茶花というよりも、洋物のアレンジに似ていた。

 小さく隅のほうに書かれた二つの店名と、見間違えるはずもない人名に私は目を見開いていた。

「プロデュース、バイ、千手堂、アンド フラワー藤田……茶道講師、一条 静――静さん、これって」

「そう。夏ごろから知り合いに空いたテナントを使わないかと頼まれていて、案を考えてはいたんだが――先日思わぬ出資者が現れてね、実現への運びとなりそうだ」

「出資者……?」

 まだ思いつかない私の横で、香織さんがぱちっと指を鳴らした。
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