抹茶な風に誘われて。
「ああでも言わないと、せっかくの正月が台無しだろうが。まったく、お前には二人きりで過ごしたいとかそういう気持ちは皆無なのか?」

 真顔で言われるものだから、内容が頭に染み渡るまで少し時間がかかった。

 やっと気づいた私が赤くなる頃には既に神社は遠く背後に見えるだけになっていて――静さんが鮮やかな微笑を浮かべる。

「よし、じゃあどこへ行きたい? 二人で何かやりたいことは――? 何でもお前の希望を聞くぞ」

 言われて見渡すと、お祝いムードに包まれた街中で、誰もがどこか幸せそうな顔で行きかっている。

 いつもなら目立つはずの静さんの着物姿も、隣にいる自分も振袖を着ていることで気にならなかった。

 まるで両家のお嬢様のように着飾って、今日なら静さんとどこへ行っても引け目を感じることもない。

 一瞬頭の中を行ってみたいと思っていた場所の候補が駆け巡ったけれど、口を開いた私は、無意識に望む答えを導き出していた。

「……二人で、抹茶を飲みたい、です。あの――いつもみたいに、静さんのお家で」

 遠慮がちに答えた私を、わずかな驚きが覗くグレーの瞳が見つめて。

 すぐに優しい微笑が返ってきた。

「俺の、じゃなくて――俺たちの、だろう?」

 まだ少し先の話か、と続けた静さんの言葉で、耳まで赤くなる私。

 浅黒い大きな手の平が私の手を包み込んで、寄り添うように歩き出す。慣れない体勢に照れる私に笑って、静さんが言った。

「じゃあ、二人だけの初釜と行くか」と――。

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