抹茶な風に誘われて。
 *



 浅黒い肌にさらりと白い肌襦袢を着て、それから長襦袢。

 腰紐を結んだら、次は長着をはおる。

 濃紺色の長着を自分の体に合わせてまた腰紐。

最後に帯を綺麗に結んで、整えて――それでいつもの着流しスタイルの完成。

 あまりにスピーディーで美しい仕草に見惚れていた私は、鏡に映ったグレーの瞳と目が合って、あわてて視線を逸らした。

 けれどもちろん間に合うわけもなくて、頭まで被りなおした布団を捲られて、耳元で囁かれる。

「覗き見するくらいなら、堂々と見たっていいんだぞ?」

「そっ、そんなこと……」

 たちまち頬が熱くなって、否定もうまくできない私を笑って、意地悪な目つきで迫ってくる。

「眠ったのかと思ったら、そうか――いつもこうやって俺の着替えを見てたのか。まあ、隠れて見るほうが興奮するからな」

「こっ、ここ……興奮なんてしてませんっ!」

「どうだかなあ。さっきだって、結構――だったと思うけど?」

 自分の肩のあたりを意味ありげに押さえて、更に一言。

グレーの瞳は細められていて、面白がっていることなんてすぐにわかる。

 わかるのに、やっぱり私は真っ赤になってしまう。

「だって――あれは静さんが」

「静さんが、何だ?」

 布団を両手で顔の半ばまで引き上げる私。

 楽しそうに追ってくる彼。

 長い指でそっと私の鎖骨をなぞって、点々とついた赤い痣に唇を付けた。

 優しく――時折強く吸われた白い皮膚に、新たな赤が散っている。

落ち着いたはずの心臓がまだ騒ぎ出して、耐えられなくなった瞬間、あっさり身を引いた静さんが私を見つめた。
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