抹茶な風に誘われて。
「ほら、してるだろう」

 それがさっきの問答の続きだったのだとようやくわかった頃には楽しげに笑い声を上げていて――またからかわれたのだとわかった。

「も、もう……静さんの意地悪!」

 ははは、と背中を向けた静さんに枕を投げつける。

「着替えるから、出て行ってください!」

「何を言ってる。全部知ってるのに、なんで出て行かなきゃならないんだ」

 真面目くさった顔つきで言い返すのも、作戦だってことも知ってるのに、際限なく顔は赤くなっていく。

「何でもです! いいから、出てってくださいー!」

 悔しくて布団を握り締めて叫んだら、やっと長身の背中は襖の向こうに消えた。
 

 
『抹茶な風に誘われて』という名前が付けられた、茶道教室兼カフェは、順調にその客足を伸ばしている。

 三ヶ月前の開店と同時に話題を呼んだのは当初の予想通りというべきか、日英ハーフで元ナンバーワンホストであるという静さん自身のこと。

 今、若い女の子の間でも注目のお店だと雑誌にも取り上げられたことで、その盛況ぶりにも拍車がかかったけれど、仕事内容とは関係のないところで話題になって。

 気遣う私に、静さんは堂々と笑ってみせたのだ。

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