抹茶な風に誘われて。
『――利用できるものは何でも利用する。それが俺自身の話題性であってもな』というのが彼の仕事のやり方らしい。

 けれど、私のことだけは徹底的に取材から遠ざけてくれて、今のところ茶花のプロデュースを手がけるという私の名前が皆に知れ渡ることはなかった。

 同時に、静さんの婚約者としての私も。

 卒業まで残り半年とはいえ、私の現在の肩書きはまだ『高校生』だから、立場的には研修生にしてくれているのだ。

 あくまで私を思いやってくれる静さんだけれど、仕事に関しては妥協はしないと断言している。

 何度も提案と修正を重ねて、葉子さんやおじさんにもお花のことを習いながら、新しい茶花を提案したり。

 気軽に抹茶が楽しめる空間を演出するお手伝いをするという、貴重な体験をしたり。

 そのどちらもがとても楽しくて、本分である勉強と同じくらいに今の私に有益なものだ。

 でも――やっぱり将来自分が何をしたいのか、そして何をするべきなのかという肝心なことはまだわからない。

 だからこそ、大学へ進学するという道を選んだ。

 静さんの助力がなかったら絶対に選べなかったであろう道だけれど、開けたからには精一杯進んでみることに決めた。

 そう、あの日初めて静さんと言葉を交わした時のように――どんな小さな出来事だって、それが誰かの人生を変えることだってある。

 静さんと出会って、私は変わった。

 私と出会って、静さんも変わった。

 それがお互いの人生を寄り添わせて、二人を結ぶ道となって、未来へと繋がっていく。

 指にはめたダイヤの指輪を日差しに翳して、思わず微笑んでしまう私に静さんが手を差し伸べた。

「行こう、かをる」

 まだ半年後に控えているはずの赤いバージンロードが、なぜか見えたような気がした。


fin.
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