抹茶な風に誘われて。
 玄関のチャイムが鳴ったのは、ちょうど裏庭に赤い毛氈を敷き、野点傘を立てた時だった。

 時刻は三時、ちょうど日差しのピークが弱まった頃――配達を頼んだ時間ぴったりだ。

 習慣的に漆塗りの盆に用意した道具類を横目で確認してから、表へ回って引き戸を開ける。

 そこにいたのは、ふわふわした茶色の髪を後ろで一つにまとめて、グリーンのエプロンをした少女だった。胸元にはナデシコの花束がしっかり抱えられている。

「あの、ご注文のお花です――」

 心なしか頬を染めて、それでもまっすぐに俺を見上げた今日の茶会の客に俺は微笑んだ。

「いらっしゃい。さあ、入って」

 そう言って中へ促すと、少女――九条かをるは驚いたように目を見開いた。

「えっ、あの、でも、お花はここでお渡ししても……」

「君の店の葉子さんに聞いたよ。今日はもうこの配達で終わりだから、店は心配しなくていいってね。だから遠慮することはない」

「えっ、そんなのいつ――」

「花束の値段を聞き忘れたから、昨日電話したんだ。そしたらそう言ってた」

 ただの思いつきで頼んだ配達が、茶会への招待に変わったのはその時のことだ。

 その人を知るには、茶席で向かい合うのが一番いい。

 これも昔父に習った言葉だというのに、今頃自然に思い返している自分がおかしくてふと笑ったら、彼女は困ったように目をぱちくりさせている。

 不思議だ。自分がこんなに年下の少女を『知ろう』としているなんて。

 でも、面白そうだという自分の勘には逆らわないこと。それは俺自身の哲学だ。

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