抹茶な風に誘われて。
「わあ、素敵――こんな裏庭があるなんて」
独り言のように呟いたかをるの手から、そっとナデシコを取り上げ、涼しげな白い籠型の花入に活けた。
「本当は客が来る前に用意しておくものなんだけど、今日は花屋さんが客だから、仕方がなくてね。ほら、出来た」
赤とピンクと白の花を数本選んで活けた後、残りの花束をそのままかをるに差し出す。
「これは君に。配達の礼だ」
なんとなくそう言ったら、かをるはまた赤くなった両頬に手を当てて、小さく「ありがとうございます」と返した。
毛氈の上に正座して、緊張したように強張った顔で茶道具の類を見回すかをる。
よく見える場所に花入を置いて、風炉釜の湯を見ていた俺に、かをるが何かに気づいたように小さな声を上げた。
「――何?」
訊ねると、遠慮がちに置かれていた茶碗を手で示して、ふわりと笑う。
「あれ、同じナデシコなんですね。とっても綺麗――!」
なにげなくそう言ってのけたかをるに、心の内で感心しながら、俺は頷いた。
「知り合いからもらった茶碗なんだけど、一応茶花と合わせたりするのが茶道の趣向だから」
優しいナデシコの絵柄が入った古い茶碗。すぐにはわかりにくいような小さい絵なのに、よく気づいたものだと思いつつも、それ以上は何も言わなかった。
裏の竹林が臨める静かな庭で、蝉の声がいいアクセントになっている。
黙ったまま周囲を見渡しているかをるの向かいに、俺も正座した。
独り言のように呟いたかをるの手から、そっとナデシコを取り上げ、涼しげな白い籠型の花入に活けた。
「本当は客が来る前に用意しておくものなんだけど、今日は花屋さんが客だから、仕方がなくてね。ほら、出来た」
赤とピンクと白の花を数本選んで活けた後、残りの花束をそのままかをるに差し出す。
「これは君に。配達の礼だ」
なんとなくそう言ったら、かをるはまた赤くなった両頬に手を当てて、小さく「ありがとうございます」と返した。
毛氈の上に正座して、緊張したように強張った顔で茶道具の類を見回すかをる。
よく見える場所に花入を置いて、風炉釜の湯を見ていた俺に、かをるが何かに気づいたように小さな声を上げた。
「――何?」
訊ねると、遠慮がちに置かれていた茶碗を手で示して、ふわりと笑う。
「あれ、同じナデシコなんですね。とっても綺麗――!」
なにげなくそう言ってのけたかをるに、心の内で感心しながら、俺は頷いた。
「知り合いからもらった茶碗なんだけど、一応茶花と合わせたりするのが茶道の趣向だから」
優しいナデシコの絵柄が入った古い茶碗。すぐにはわかりにくいような小さい絵なのに、よく気づいたものだと思いつつも、それ以上は何も言わなかった。
裏の竹林が臨める静かな庭で、蝉の声がいいアクセントになっている。
黙ったまま周囲を見渡しているかをるの向かいに、俺も正座した。