抹茶な風に誘われて。
軽く付けただけのキスに、かをるは怯えたように固まる。
くぐもった悲鳴らしき声は喉の奥で止まり、形にはならなかった。
――壊してやろうか。
恐ろしい言葉が頭に浮かぶ。
一瞬本当に行動に移しかけた俺を止めたのは、玄関のチャイムと馬鹿でかい「ちわーっす!」という亀元の声。
手首を離したら、かをるは力が抜けたように崩れ落ちた。
「やっぱ抹茶が飲みたくなってさー、来ちゃった! って、えーっ!? な、何? あれ、かをるちゃん? えっ!? えーっ!?」
一人あたふたと声を上げる亀元の様子で緊張が解けたのか、かをるは急いで立ち上がり、側に置いてあった店のエプロンをぐしゃりと掴んだ。
「あ、あたし――帰ります!」
震える声を残して、靴を履き、振り返りもせずに裏口を開け、飛び出すかをる。
「ちょっと――!」
呼び止めようとした亀元に腕を引かれ、一瞬だけこちらを向いた顔に光ったのは涙。
さすがに躊躇した亀元が手を離し、今度こそかをるは出て行った。
パタパタと走る音が消え、俺の前に残ったのは先ほどあげたはずの、ナデシコの花。
――馬鹿馬鹿しい。俺は……何をやってるんだ?
頭が冷えたら、急速に自分がやったことが蘇ってくる。
「静」
呼ぶ亀元に、俺は笑った――頬の端だけゆがんだ、陰鬱な笑みだったけれど。
「ただの気まぐれ、お遊びだよ」
一言だけ答えたら、蝉が俺を責めるかのように、大合唱を始めた。
くぐもった悲鳴らしき声は喉の奥で止まり、形にはならなかった。
――壊してやろうか。
恐ろしい言葉が頭に浮かぶ。
一瞬本当に行動に移しかけた俺を止めたのは、玄関のチャイムと馬鹿でかい「ちわーっす!」という亀元の声。
手首を離したら、かをるは力が抜けたように崩れ落ちた。
「やっぱ抹茶が飲みたくなってさー、来ちゃった! って、えーっ!? な、何? あれ、かをるちゃん? えっ!? えーっ!?」
一人あたふたと声を上げる亀元の様子で緊張が解けたのか、かをるは急いで立ち上がり、側に置いてあった店のエプロンをぐしゃりと掴んだ。
「あ、あたし――帰ります!」
震える声を残して、靴を履き、振り返りもせずに裏口を開け、飛び出すかをる。
「ちょっと――!」
呼び止めようとした亀元に腕を引かれ、一瞬だけこちらを向いた顔に光ったのは涙。
さすがに躊躇した亀元が手を離し、今度こそかをるは出て行った。
パタパタと走る音が消え、俺の前に残ったのは先ほどあげたはずの、ナデシコの花。
――馬鹿馬鹿しい。俺は……何をやってるんだ?
頭が冷えたら、急速に自分がやったことが蘇ってくる。
「静」
呼ぶ亀元に、俺は笑った――頬の端だけゆがんだ、陰鬱な笑みだったけれど。
「ただの気まぐれ、お遊びだよ」
一言だけ答えたら、蝉が俺を責めるかのように、大合唱を始めた。