抹茶な風に誘われて。
「配達、行ってきまーす!」
精一杯元気な声を出して、店内にいる葉子さんに頭を下げた。
ここ数日心配そうな顔をさせてしまっているのがわかるから、できるだけ笑顔を浮かべる。
でも心からの笑顔にはなりきれなくて、私は急いで自転車にまたがった。
今日もまた商店街と地元のお得意さまにお花の配達をする――それが私の仕事。
あの日と変わらない道を自転車で走りながら、私は曲がり角から顔を背けた。
ここを左に曲がれば、あの人の家がある。
夏の午後の、静かな茶会に招待してくれた、あの人の――。
頭を振って、考えから逃れようとしても心は正直で、どうしてもあの時に舞い戻ってしまう。
――なぜ、あんなことをしたの。
問い詰めたい自分と、怯える自分と、そして深く傷ついた自分とに挟まれて動けない。
あの人に言うように、簡単に信じて、上がりこんで――あげくの果てにキス、されて……。
いくら自分が鈍い性格だといっても、あれが特別な行為だってことくらいは知ってる。
――初めて、だったのに。
片手で唇に触れて、また泣きそうになるのを必死で堪えた。
あんなことされて、私はもっと怒るべきだったんじゃないだろうか。
そう思うのに、なぜか気持ちはどんどん沈んでいく。
怒るというより、落ち込んでいる、というべきか。
「ショック……だったのかな」
声に出してみて、改めてわかった。
私は無理やりキスされたことが悲しいんじゃなくて、あの人に嘘をつかれたことがショックだったんじゃないかって。
あの綺麗なグレーの瞳が、暗く曇ったのが悲しかったんじゃないかって。
精一杯元気な声を出して、店内にいる葉子さんに頭を下げた。
ここ数日心配そうな顔をさせてしまっているのがわかるから、できるだけ笑顔を浮かべる。
でも心からの笑顔にはなりきれなくて、私は急いで自転車にまたがった。
今日もまた商店街と地元のお得意さまにお花の配達をする――それが私の仕事。
あの日と変わらない道を自転車で走りながら、私は曲がり角から顔を背けた。
ここを左に曲がれば、あの人の家がある。
夏の午後の、静かな茶会に招待してくれた、あの人の――。
頭を振って、考えから逃れようとしても心は正直で、どうしてもあの時に舞い戻ってしまう。
――なぜ、あんなことをしたの。
問い詰めたい自分と、怯える自分と、そして深く傷ついた自分とに挟まれて動けない。
あの人に言うように、簡単に信じて、上がりこんで――あげくの果てにキス、されて……。
いくら自分が鈍い性格だといっても、あれが特別な行為だってことくらいは知ってる。
――初めて、だったのに。
片手で唇に触れて、また泣きそうになるのを必死で堪えた。
あんなことされて、私はもっと怒るべきだったんじゃないだろうか。
そう思うのに、なぜか気持ちはどんどん沈んでいく。
怒るというより、落ち込んでいる、というべきか。
「ショック……だったのかな」
声に出してみて、改めてわかった。
私は無理やりキスされたことが悲しいんじゃなくて、あの人に嘘をつかれたことがショックだったんじゃないかって。
あの綺麗なグレーの瞳が、暗く曇ったのが悲しかったんじゃないかって。