抹茶な風に誘われて。
 ――どうして? 私、何か怒らせるようなこと言ったんだろうか。

 お花を大切に育てていて、あんなふうに流れるような仕草でおいしいお茶を点てる静さん。

 無知な自分だけれど、茶道がどれぐらい難しいのかってことはなんとなくわかる。

 あそこまで鍛錬するのは並大抵の努力じゃないんだろうってことも――。

 家に招かれて、ほんの短い間に言葉を交わしただけで、親しくなったなんて思っていない。

 でも、親しくなれそうな気がしたのは事実。

 私……静さんと親しく――なりたかったの?

 気づいてみればそれが本心だったのかもしれない。

 初対面からあれこれ振り回されて、腹を立てたり、ドキドキしたりしっぱなしだったけど――それでも私は静さんに惹かれてた。

 あのグレーの瞳の奥で何を考えているのか、今までどんな人生を生きてきたのか、彼がどんな人なのかを知りたかった。

 だから、向かい合ってお茶を飲んだ時あんなにも楽しかったんだ。

 もう、会えないのかな。

 そんなことを考えながらいくつかの配達を終えて、カゴには最後の花束だけが残っていた。

 貼り付けられたメモに書いてある住所とお店の名前を確認して、首を傾げる。

「駅前裏通り、ムーンリバー……?」

 聞いたことのないお店だったけれど、私はそのまま自転車を走らせた。

 番地通り進んでいくと、たどり着いたのは裏通りの一番端にあるビルだった。

 そこは飲食店や居酒屋などが立ち並ぶ雑然とした区域で、普段あまり足を踏み入れたこともない私は、少し緊張しながら自転車を停めた。

 時間は午後五時を回ったところで、まだまだ辺りは明るい。

日差しの下で眠っているネオンサインの看板たちを見比べながら、配達先を探した。

 ビルのテナント名の一番下、地下一階にそのお店の名前が入った白いプレートを見つけ、思わず読み上げる。

「ホスト、クラブ――?」
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