抹茶な風に誘われて。
「えーっ!? 君、そういう系? まさかそう来るとは思わなかったなー!」

 目を丸くして言われても、何がどういう系なんだかわからない。

 困ったまま、とにかく花束を渡そうかと思ったけど、亀元さんはひとしきり笑い終えるまで受け取ってくれなかった。

「はー、おかしかった。あっ、ごめん、つっこみそこねた。いやーまさか本気で言ってるんじゃないよね」

 当然のように聞かれて、私はなおも首を傾げる。

「えっと……そのまさかっていうか……ごめんなさい、本当に知らないんです」

 正直に答えたら、亀元さんはまじまじと私を覗き込んで、そのままあんぐりと口を開けた。

「嘘……マジで知らないの? ホスト」

「はい」

「マジのマジで?」

「はい」

 何度聞かれても同じことなんだけど、亀元さんは信じられないのか数回訊ねたあげく、やっと納得したらしかった。

「そうなんだー……世の中にこんな汚れのない子がいるなんて知らなかった。まだまだ日本も捨てたもんじゃないね、うんうん」

 一人で何度も頷いていた亀元さんが、ようやく気づいたように花束を受け取ってくれる。

 ああ、これで無事配達も終わり――さっさと帰ろう。

 そう思った私に、亀元さんは笑いかけたのだ。

「よかったらさー、ジュースくらいご馳走するから寄ってきなよ。あっ、まだ誰も他のホスト来てないし、安心して? 内勤の奴らはいるけどー」

「えっ、そんな、いいです。早くお店に戻らないといけないし」

「いいからいいから! ねっ? 十分だけ! ホストがどんなもんか、知ってもらいたいし!」

 いや知らないほうがいいのかな、でも――とか呟きながら、亀元さんは私の肩を押す。

「君だってさ、知りたいでしょ? 静のこととかさ――」

 そう言われて、帰ろうとしていた足が止まる。

「静さんのことって……?」

 なぜ足を止めてしまうんだろう。

 なぜ訊ねてしまうんだろう。

 静さんの名前が出た途端、胸がドキリとして、帰れなくなった。

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