抹茶な風に誘われて。
「よかった、元気そうで。静となんかあったみたいだからさー実はちょっと心配だったんだよね」

「えっ……」

「どうせあいつになんか変なこと言われたんだろ? あいつも根は悪い奴じゃないんだけど、性格けっこーひん曲がってるからさ。素直じゃないんだよ。でも気にすることないからね、かをるちゃん?」

「え、えっと――はい」

 本人のいないところとはいえ、好き放題言う亀元さんに私は目を丸くして、つい頷いてしまう。

「あの……静さんとは、お友達ですか?」

 随分と親しそうな話しぶりだからそう聞いたんだけど、途端に亀元さんはおかしそうに吹き出した。

「お友達――そう、うん、ダチだと俺は思ってるよ。年は七つも違うけど、あいつそういうの気にする奴じゃないし。店はやめたわけだから、もう先輩後輩の間柄でもないしね。まっ、今は――茶飲み友達っての?」

 あくまでも軽く答えられ、途中の単語に私はつい訊ねる。

「店はやめたって――同じお店で働いてたんですか?」

「そうそう。あいつ元ナンバーワンホストだったんだ、歌舞伎町の有名店で。三年間一緒に働いた仲なんだけどさ、あいつが店やめてから俺はこっちに移ったの。あくせく働くのも疲れちゃったしね~ま、ここだとわりと少人数で気楽だから。なーんて、どっちの店でも俺は万年最下位なんだけどさ!」

 そう言って亀元さんが大笑いしたところで、さっきのスタッフさんが彼を呼ぶ。

「さっさと掃除終わらしちまえよーヒカル! あと三十分で開店だぞー」

 急かされて渋々立ち上がる亀元さん。

 思わずそのスーツの端を掴んでしまったのは、無意識だった。

< 55 / 360 >

この作品をシェア

pagetop