抹茶な風に誘われて。
「んまっ、静ちゃんのカノジョなのお? それにしても高校生とは、ついに静ちゃん思いきったわねえ。人妻とかなら前はあったけど」

 余計なことまで蒸し返すハナコを睨みつけると、「こわーい」と全く怖がってもいない口調で返された。

「あれこれ言うのは勝手だが、俺はガキには興味はない。さっさと水屋の準備でもしろ、半東が!」

 足袋を履いた足で背中を軽く蹴ると、大げさに痛がった駄目元がふくれながら席を立った。

 正式な茶事みたいに懐石があるわけでもないから、今日の半東役――要するに裏方での手伝い係みたいなもんだ――を任せた駄目元に大した仕事なんてないのだが、結局のところ追い出すことには成功した。

「あらー静ちゃんが怒るってことは、結構まんざらでもないんだー。歌舞伎町の女泣かせもついにピュアなラブに目覚めたってわけなのね! ハナコ、感激!」

 懐から扇子を取り出して扇いでくるハナコに、俺は眉をひそめる。

「何がピュアなラブだ。勝手に感激するな、このオカマ野郎」

「もーっ、口が悪いんだから。綺麗な顔してるのにもったいない! まっ、本当にオカマだから別にいいけど」

 ふふ、と気色の悪いウインクをよこされて、会話をあきらめた俺は無視して時計を見上げた。

 二時四十五分。残りの客は二人――駄目元の言うとおりなら、の話だが。

 気楽な仲間うちでの茶事は、俺にとってもほんの息抜きみたいなもので、駄目元に着物を着せてやったのもただ雰囲気を楽しむだけのため。

 ましてや役目を与えてやったのだって、お遊び程度にしか過ぎない。

 そんなふざけた茶事によりによってあの少女を誘うとは。

 一応茶道をたしなんだことがあり、店でいつも着るからと着物にも多少詳しいハナコを横目で見つつ、もう一人の客のことも思い浮かべた。

 ――こんな茶事にやってきて、あの子は一体どう思うんだろう。

 駄目元の様子からして、おそらく俺の過去のことも話してあるのかもしれない。

 そう思いついたら、イライラしていた心にまた俺の大好きな『お遊び』の神が舞い降りてきた。

 ――まあいい。面白いじゃないか。

 少女がどんな顔で自分を見るのか、どんな風に反応するのか、せいぜい楽しんでやろう。

 
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