抹茶な風に誘われて。
 ――うぜえ。

 それが俺の感想。

 街中ならまだしも、河原でなら静かに散歩できるかと思ったのに。

 お子様はさっさと学校に帰れよな――そう思いつつ、さっさと通り過ぎようとした、その時だった。

 方々に散って、適当にやっている生徒たちの中で一人、手にしたゴミ袋を重そうに引きずりながら、黙々とゴミを拾う女生徒がいた。

 肩まで広がった明るいブラウンの髪は癖毛らしく、ふわふわと優しく揺れ、色白の頬は夕日を映したように薄紅色に染まっている。

 髪色とは裏腹に、一重まぶたの無垢な顔は日本人形のようで、周囲の化粧もけばけばしい女子高生の中では明らかに異色を放っている少女。

 目を止めたのは、ただ彼女一人が懸命にゴミを拾っていたからなのか、それともその今時らしくない外見からなのか――。

 ――きっと、一人で損するタイプだな、ああいうのは。

 勝手に分析して、通り過ぎる。

 懐から出した扇子で蒸し暑い夕暮れの風を自分に送りながら、俺は住宅街へと戻る階段に足を乗せる。

 その時、ふと髪と着物の裾をそよがせた、強めの風。

 足元に目をやって、気づいた――ひっそりと咲く、夕顔の花に。

 よく見ると、堤防沿いに建つ家の垣根からツルが伸びてきたらしく、一つだけ離れたところに咲いている。

 真っ白のやわらかそうな花弁が静かに夕暮れを楽しんでいるような、風情のある花。夕方に花開き、翌朝にはしぼんでしまう、儚い花。

 見つめるうちに脳裏に蘇る面影に、一瞬眉を寄せ、俺は頭を振った。

 あの儚い人の人生は、幸せだったのだろうか――なんて今でも思ってしまう。

 考えても仕方のないこと。けれど、いつまでたっても頭から離れない、問い。

 その苦しさにいつしか俺は、目の前の花をツルの途中から手折っていた。

 手にした白い花をぼんやりと眺めながら、そのまま階段を下りようとした、その瞬間だった。
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