抹茶な風に誘われて。
濃紺の紬の着物と袴――茶事の亭主としては軽すぎる装いだが、夏の汗ばむ肌にはちょうどよくなじむそれを整え、鏡で帯を確認する。
浅黒い肌とグレーの瞳に和装は我ながら目立つのはわかっていたが、いつ着ても着物独特の心地いい緊張感にはかえられない。
全く袖を通さない時期も長かったというのに、いつのまにか普段着にも着物を選ぶようになっていた。
今日の茶事に選んだ茶道具類にも目をやった時、玄関のチャイムが鳴った。
「ちょっとおーなんで皆着物なのよおっ! 普段着でいいって言ってたくせにー!」
玄関に出る前に、先に引き戸を開けた女は俺たちを見るなりぶうぶう叫びだした。
「あっ、香織さん。いらっしゃーい、いやー静がどうしても着てみろってうるさいもんだから、俺も着ちゃった。でも香織さんだってスーツ似合ってるじゃないすか、よっ、整形美人!」
「やーだ、ヒカルくんったら、本当のこと言っちゃだめよー! いくらなんでも全身整形女だなんて!」
「えっ、ハナコさんこそ、どさくさにまぎれてそんな真実言っちゃだめだよー。今度菓子に毒盛られて殺されちゃうかもよ」
「うっるさーい!!」
勝手に始まるがやがやとした会話は、バブル期にも誰も着なかったような、ショッキングピンクのツーピーススーツを着た香織によって遮られた。
あれを似合うと言い切る駄目元のセンスも相当なものだとは思ったが、後半は事実だったので静観していたのだが。
「ってか、誰が全身整形だって!? あたしがやったのは顔と胸とお尻だけよっ! 全身やるような金がどこにあるってのっ! あんまりうるさいと帰っちゃうわよ!」
「それを世の中では全身というのよね」
「帰っちゃうって、香織さん。今来たばっかじゃないですかーやだなあもう」
ハナコと駄目元にあっさりと笑われて、香織は長い栗色のストレートをばさっと肩に流して鼻息を荒くした。
「違うわよ! あたしじゃなくて、この子のこと!」
言って香織が半分残っていた引き戸の隙間を全開にする。
そこには顔を真っ赤にした、華奢な少女が立っていたのだ。
浅黒い肌とグレーの瞳に和装は我ながら目立つのはわかっていたが、いつ着ても着物独特の心地いい緊張感にはかえられない。
全く袖を通さない時期も長かったというのに、いつのまにか普段着にも着物を選ぶようになっていた。
今日の茶事に選んだ茶道具類にも目をやった時、玄関のチャイムが鳴った。
「ちょっとおーなんで皆着物なのよおっ! 普段着でいいって言ってたくせにー!」
玄関に出る前に、先に引き戸を開けた女は俺たちを見るなりぶうぶう叫びだした。
「あっ、香織さん。いらっしゃーい、いやー静がどうしても着てみろってうるさいもんだから、俺も着ちゃった。でも香織さんだってスーツ似合ってるじゃないすか、よっ、整形美人!」
「やーだ、ヒカルくんったら、本当のこと言っちゃだめよー! いくらなんでも全身整形女だなんて!」
「えっ、ハナコさんこそ、どさくさにまぎれてそんな真実言っちゃだめだよー。今度菓子に毒盛られて殺されちゃうかもよ」
「うっるさーい!!」
勝手に始まるがやがやとした会話は、バブル期にも誰も着なかったような、ショッキングピンクのツーピーススーツを着た香織によって遮られた。
あれを似合うと言い切る駄目元のセンスも相当なものだとは思ったが、後半は事実だったので静観していたのだが。
「ってか、誰が全身整形だって!? あたしがやったのは顔と胸とお尻だけよっ! 全身やるような金がどこにあるってのっ! あんまりうるさいと帰っちゃうわよ!」
「それを世の中では全身というのよね」
「帰っちゃうって、香織さん。今来たばっかじゃないですかーやだなあもう」
ハナコと駄目元にあっさりと笑われて、香織は長い栗色のストレートをばさっと肩に流して鼻息を荒くした。
「違うわよ! あたしじゃなくて、この子のこと!」
言って香織が半分残っていた引き戸の隙間を全開にする。
そこには顔を真っ赤にした、華奢な少女が立っていたのだ。