抹茶な風に誘われて。
「わっ……かをるちゃん!? えーっ、すっげー日本美人! 超似合ってる! おしとやかー!!」

「あらっ、まあまあ! この子が静のカノジョなのお? かわゆいわー! お着物素敵じゃないのっ!」

 テンションの高い叫び声と、嬉しそうなだみ声に挟まれながら俺は一瞬固まっていた。

 そう、ハナコの言った通り、九条かをるは着物でやってきたのだ――茶事にふさわしい、上品な色無地姿で。

 ベビーピンクの優しい色に、ツタと葛の描かれた白地の夏名古屋帯をさらりと合わせた着こなしは、彼女の大人しげで無垢な印象にとてもよく似合っていた。

「あの――お、お招きいただきまして、えっと……」

 ふわふわとした茶色の髪が今日はきちんと後ろにまとめ上げられている。

 それだけで少し大人っぽく見えたのもつかの間、緊張しきった顔で挨拶に四苦八苦するかをるを見ていた俺は、ついに吹きだしてしまった。

「そんなに緊張しなくていい。ただの仲間うちのお遊びみたいな茶席だ。さあ、どうぞ」

「は、はい――」

 招き入れた俺を見たギャラリーたちは、我先にとかをるの周りを囲う。

「さあさ、お入んなさいな。あっ、アタシはハナコ。見ての通りオカマだけど、よろしくねん」

「あっ、俺はもちろん覚えてるよね! 亀元、亀元! そんでこっちは香織さん。俺の店の向かいでホステスさんやってんだー。って、そういえばなんで二人一緒に立ってんの? もしかして知り合い?」

 相変わらず馬鹿まるだしの駄目元の問いに、かをるはあわてたように手を振る。

 しかし先に答えたのは香織だった。

< 61 / 360 >

この作品をシェア

pagetop