抹茶な風に誘われて。

Ep.8 欲求

 おいしいお茶を点てることができるのはいい人だ――私はそう言った。

 本当に、単純にそう感じたから言っただけなのだけれど、途端、静さんの態度が急変した。

 そう、あれは確かに怒ってた。

 どうしてなのかはわからない。

 でも私の言葉が彼を怒らせたことは確かだった。

 グレーの鮮やかな瞳が、ふいに意地悪に閃いたかと思うと、私はキス、されていて――。

 ただ驚いて、それからどうしたらいいかわからなくなって、その場から逃げるように帰った。

 けれど部屋に戻っても、バイトしていても、何をしていても頭から離れないのは初めての感触。

 そして、ぞくりと来るほどの、鋭い彼の瞳――。

 もう一度彼に会いたいのか、それとももう会いたくないのかもわからなかった。

 それなのに、亀元さんに誘われた時、私は確かに嬉しかったんだ。

 それで、気づいた――やっぱり私はもう一度、静さんに会いたかったんだって。

 笑顔の裏にあるものが何なのか、彼の心に陰りを差しているものは何なのか、知りたいと思った。

 誰かのことをこんなにも知りたいと思ったのは、初めてだった。

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