抹茶な風に誘われて。
 わいわいがやがや、賑やかなお喋りが止まらないお茶会は、正直予想外だった。

 この間の、静さんと二人だった野点よりも更に気楽で、型破りの茶席。

 でもオカマのハナコさんも、ホステスの香織さんも、そしてホストの亀元さんもとっても気さくで、いい人ばかりだった。

 ――やっぱり来てよかった。静さんのお友達と、こうして知り合えたんだもの。

 内心喜びながら、私はすべすべとした着物の膝で、両手を合わせていた。

 スカートスーツ姿の香織さんと、『半東(はんとう)』というお茶会での裏方さんの役目をしているらしい亀元さんも、すっかり足を崩して座っていたけれど、斜め向かいでお茶を点てる静さんは今日もやっぱり綺麗な作法で正座していたから、私も足を崩さずにいた。

 甘い生菓子を最初に頂いた後、濃茶(こいちゃ)と呼ばれる濃厚な抹茶が出されて、一旦お庭に出たりして休憩を挟んだ後の今は、薄茶(うすちゃ)というあっさりしたお茶の時間。

 以前の野点でご馳走になったものと同じ、爽やかなお茶だ。

 外の庭からは夕暮れの蝉の鳴き声が響いていて、扇風機だけの茶室はとても暑いはずなのに、風通しのいい古い平屋だからか、着物の肌もそんなに汗ばんではいなかった。

「あら、いい風」

 軒先に吊るされた風鈴の音に、ハナコさんが一言。

 野太い声で、男の人なのに女言葉を使う彼は不思議だったけれど、一緒に数時間過ごしただけでもう慣れてしまった。

 オカマバーという、男性が女装してお酒を出したりするお店で夜は働いているらしい。

 でも渋めのグリーンの着物はとてもセンスがよくて、茶道をかじったことがあるという手つきと正座は慣れたものだ。

「ここ、例のお得意さんが譲ってくれたんでしょう? いい物件もらったわよねえ。静ちゃんはそういうとこ、ラッキーなんだから」

 ハナコさんに肩を叩かれて、静さんは眉を寄せながら茶筅を動かしている。

「人聞きの悪いことを言うな。ちゃんと買ったんだよ――茶室や茶道具をしっかり手入れすることを条件にな」

 低く答える静さんに、香織さんまでもが意外そうににじり寄った。
< 66 / 360 >

この作品をシェア

pagetop