抹茶な風に誘われて。
「えっ、本当? あたしもてっきり譲り受けたんだとばっか思ってたわー。だってあのばあちゃん、かなり静に参ってたじゃない? だからてっきり形見として惚れた年下の恋人に遺したんだと思ってたのに」

「俺も俺もー! っていうか、あれは伝説だったよなーいくら何でも七十のばあちゃんがホストクラブ通いってさ。静の色気は年齢制限なしってことだけど」

 ははは、と頭の後ろで両手を組んで笑う亀元さんの頭を、お茶を点て終わった静さんが懐から出した扇子で打った。

「あっ痛(つ)! なにすんだよ、静!」

「客のことはとやかく言わないのがホストの原則だろうが、駄目元。そんなんだからお前はいつまでたっても駄目元なんだよ、この万年最下位ホストが」

 目を見張る私のことは見えていないらしく、それぞれが好き放題に言葉を交わす。

 その様子がおかしくて、私はつい笑ってしまった。

「あーっ、ひっでえ! かをるちゃんまで笑ったー! 言っとくけど、俺もしかしたら今月は夢の最下位脱出かもなんだぜ? 昨日新人が入ってさーそいつがまた俺よりもドジで抜けてんの!」

「いくらドジでもあんたより抜けてるやつなんていないわよー。見ててみな、たぶん来月も新人に抜かれてると思うから。あっ、かをるちゃん、駄目元ってのは静が付けたあだ名なんだけどね、これがまたもうぴったりで……」

「香織さん! もうその話はなしっすよ! 俺、かをるちゃんにまでバレたらもう死んじゃう!」

「ならアタシが言ってあげるわー! 駄目元ってのはねー、昔歌舞伎町の店で二人一緒に働いてた時の話でさ、酔っ払ってつぶれちゃって、この子ったら客の膝に吐いちゃってね。それを横目で見た静が冷ややかに命名したっていう伝説のあだ名なの! もうウケるでしょう!」

「ぎゃーハナコさん! マジうらむー!!」

 乱入して暴露したハナコさんの首を絞めるふりをする亀元さんと、逃げるハナコさん、そしてはたで見ながら手を叩いて笑う香織さん。

 茶室は先ほどの涼やかな風はどこへやら、まるで修学旅行の夜みたいな大騒ぎ。

 さすがにどうしようかと視線をやった先で、静さんは冷めた顔で静観していた。

 ――手にしっかりと皆の分の干菓子を持って。
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