抹茶な風に誘われて。
「心配しなさんな。何にもしてないから。いや、何て言って怒ってやろうかって思ったんだけど、彼、開口一番に『あの子は無事か』ですって」

「ぶ、無事……?」

「そう。平然としたふうに装ってはいたけど、走ってきたみたいで息は切らしてるし、目は真剣だし――こりゃ本気で心配してるなってのがわかったから、怒るのはやめてあげたわ」

 降参、とでもいうように手を上げて、葉子さんはまた笑った。

 ――静さんが、会いに来てくれた。私のことを心配して……?

 驚きが、ゆっくりと心の中であたたかい気持ちに変わっていく。

 やっぱり静さんは、優しい人だ。

 そう思ったら、体まで軽くなるような気がした。

「だから脅すだけに留めておいてあげたの。かをるちゃん、体が弱いから一度寝込むと心配なんです、って。このまま起き上がれなかったらどうしようって大げさに言っといたわ。そしたら彼、固まっちゃって、また来ますってそそくさと帰っちゃった」

「よっ、葉子さん――!」

「それがおかしいの、さっき千手堂のご主人と電話してたら、あの人も同じこと言ったんだって。いやーね、さすが同級生。変なとこで気が合うんだから。あれはすっかりホストくんも信じ込んじゃったわねー。だからかをるちゃんからちゃんと弁明しといてちょうだい」

「べ、弁明って……」

 それって、もう一度静さんに会って話すってことで――考えただけでまた熱が出そうな気分になる。

「今日はもうバイトはいいから、休みなさい。それで好きなとこにお出かけでもしてらっしゃいな。あ、でもあまり無理はしないようにね。ほら、おかゆ食べて、薬飲んで、それから行くのよ」

 わかった? と念を押す葉子さん。

 眼差しは優しいけど、肩に置かれた手には有無を言わせない力がこもっていて。

 とにかく言われたようにおかゆを口に運び始めたら、葉子さんが優しく言った。

「みんなかをるちゃんのこと大事なの。心から心配してるんだからね」

 熱いおかゆよりあたたかい言葉が、じんわりと染み入るようで――私はいつしか微笑んでいた。

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