抹茶な風に誘われて。
「Sei, see you next week!」

「Thank you!」

 元気よく挨拶する彼らに、静さんが片手を上げて何事か答えている。

 いつもの皮肉げな笑みではなく、まるで社交辞令のような、どこか儀礼的な微笑みだったけれど、それは十分優しいものだった。

 一番最後の学生が出て行ってから、ふう、と一息ついて笑みを収めた静さんは、佇んでいた私に気づいて、目を丸くした。

「……お前」

 その一言には、どうしてとか、こんなところで何をやってるとか、とにかく色々な驚きが込められていたのがわかったから、私はとりあえずお辞儀した。

「あっ、あのっ……おかげさまで、もうすっかり元気です! お見舞いに来てくださって、ありがとうございました!」

 言おうと決めていた言葉をまず口にしたら、次は何を言えばいいのかわからなくなってしまう。

「み、見舞いって――」

 あれは別にそういうんじゃ、とかなんとか呟いている静さんの声にひるみそうになる前に、私は目をぎゅっと閉じて、後ろ手に持っていたものを差し出した。

「これ、お礼です、お見舞いと……この前のお茶会の。私、なんだか無作法に帰ってしまったままでしたし、それに――ご心配おかけしてしまったみたいだったから」

 沈黙がその場を通り過ぎて――次に聞こえたのは、静さんの笑い声だった。

 驚いて目を開けた私の前で、静さんはさもおかしそうに笑い続ける。

「あ、あの……私、何かおかしなこと言いましたか?」

 もしかしてまた失敗したんだろうか。

 自分の言葉を思い起こして首を傾げる私に、やっと笑い終えた静さんが口を開いた。
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