抹茶な風に誘われて。
「普通、逆だろうが」

「……逆?」

「お見舞いされたほうが花を渡すっておかしいだろう。寝込んでた君が俺に礼なんか言うことはないんだってこと」

 さっきは『お前』って呼んでくれたのに。

 なぜだか残念な気持ちになりながらも、そういうことか、と私も笑う。

「ああ、そうですよね。ごめんなさい――でも、来てくださったって聞いてすごく嬉しかったから……」

 ずうっと差し出したままだった花束を、どうしたらいいのか迷っていたら、一瞬黙った静さんがふう、とため息混じりに私の手から奪い取る。

「わかった、もらっておくさ。まったく……つくづくストレートだから、反応に困る」

 ぶつぶつとぼやくような言葉に、あわてて見上げると、静さんはまた困ったような顔をして目をそらした。

「――そんな心配そうな顔しなくても、別に嬉しくないとは言ってない」

「えっと……じゃあ、もらっていただけるんですか?」

 嬉しくて覗き込んだら、静さんは頷いて歩き出した。

「それより――本当に体はもういいのか。その……もともと体が弱いとか聞いたけど」

「あっ、あの――ごめんなさい! あれは――葉子さんと千手堂のご主人がですね……その」

 真剣な瞳で聞いてくれたから、どうしたらいいのか困って目を泳がせる私。

 けれど静さんは私の答えを待たずに、何かに気づいたように額に手をやった。

「――くそ、してやられたか」

「えっ?」

 何を呟いたのかわからなくて訊ねたけれど、それきり静さんはまた黙ってしまう。

「とにかく私は昔から体だけは丈夫なほうなので、平気です! あれは珍しく――本当に珍しく寝込んでしまったってだけで……」

 怒らせてしまったのかとびくびくしている私を振り返って、静さんはなぜかおかしそうにまた笑った。

「……もういいよ。君が変な策とか練るようなタイプじゃないのはわかってる」

 また意味不明な答えだったけれど、とにかく優しい瞳が振ってきて、私は思わずほっとしてしまった。
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