抹茶な風に誘われて。
 ――やっぱり呼んでおいてよかったかな。

 そう感じながらも、彼女の笑顔を引き出したのが自分でなかったことが少し癪に触った。

 ――おいおい、一端に嫉妬してるのか、静。

 自分で自分に問いかけて、頭を振る。

 このままでは本当に自分の『負け』だ。

「君が緊張するかなと思って呼んでおいたんだが、正解だったみたいだな。少しうるさいだろうが、楽にしてくれ」

 余裕の表情をわざとらしく浮かべながら、俺は微笑む。

 ハナコと香織がつつきあうのが見えたが、幸いかをるは気づく様子もなく頷いた。

「あ、あの……千手堂のおばさんが、試作品だから皆さんでどうぞ、とこれを――」

 かをるが言い終わる前に、駄目元が紙袋を受け取り歓声をあげる。

「うっわーうまそう! 上生菓子じゃん。しかも高そうな立派なやつ。わーい、ありがとうかをるちゃんっ!」

 早速手を伸ばす意地汚い駄目元の手をすかさず扇子で打つと、ハナコが笑った。

「あーあ、やられてやんの。品がないからいけないのよ、さっ、いただきましょ、香織、かをるちゃん。あらっ、二人そういえば名前が一文字違いねー」

 さりげなく皿に移そうとするハナコの手から生菓子の箱を奪い返した俺に、ハナコが「ひどおいっ」と声を上げるが、そんなものは無視だ。

「菓子は稽古の後だ。お前らと来たら、菓子を出せば延々喋りまくって、どうせ稽古なんて二の次になるのはわかってるんだからな」

「ま、静ちゃんったら、いつもは自分が一番先に食べるくせに! 今日はかをるちゃんがいるからカッコつけてんのねっ! んもう、なんだか妬けちゃうわー!」

「うるさい、馬鹿なこと言ってないでさっさと準備しろ、準備を」

 すっぱり切り捨てて、茶道具と盆を揃え始めた俺の後ろに、かをるがあたふたと駆け寄ってくる。

「おっ、お手伝いします!」

「いいよ、初めてで何もわからないだろうから、とりあえず最初は俺が」

「いいえ! やらせてください」

 あんまり必死な目をするから、二度目に断ることはできなくなった。
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