抹茶な風に誘われて。
「君も知ってるとおり、茶道に欠かせないのがこの茶碗と茶器。そしてこっちは茶杓と茶筅。茶杓はこの茶器から抹茶を椀に移すためのもので、茶筅はかきまぜるもの。それはわかるね?」

「はい」

 基本の基本から、とできるだけ優しく笑ってやると、かをるは少し頬を染めながらもしっかりと頷く。

「それからこの布は茶巾と言って、点前の間、茶碗を拭くためのもの。この基本の道具類を盆の上にこうやって並べて使うんだ」

 畳んだ茶巾と茶筅を茶碗に入れ、茶杓もその縁に載せていく俺の手つきをじいっと見つめつつ、かをるは几帳面にメモまで取っている。

 駄目元たちは感心したように口笛を鳴らした。

「盆点前とは、こうやって必要な道具を全て載せた盆の上だけで進める点前のことで、初めて茶道を習う人にもややこしい動作がなく、覚えやすい基本のやり方だと言える。さあ、これで準備は終わりだ。お前らもやるんだぞ、ぼさっとしてないでさっさと腰に帛紗(ふくさ)つけろ」

「んまっ、かをるちゃんと扱いが違いすぎない? 静ちゃんったら、ひどいわあ。はい、かをるちゃんどうぞ」

 ぼやきながら、朱色の布を二枚取りあげ、かをるにも手渡すハナコの手から、すかさず香織が一枚取り上げた。

「男は紫、女は朱色でしょ? ほらっ、あんたのはこっち。あ、老人の黄色でもいいかもねえー」

「まーっ、あんたまで! いいじゃない、細かいこと言わなくても!」

 紫の帛紗を二枚駄目元とハナコに投げる香織に、ハナコがふくれる。

「えっと……性別によって色も違ったりするんですね」

 メモしながら遠慮がちに笑うかをるに頷き、俺はいつも通り騒がしい空気になり始めた稽古を引き締めるべく、点前を始めたのだった。
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