抹茶な風に誘われて。
「これで、盆点前は終了。流派によって違いはあるが、大体の流れは同じだから、あまり気にしなくていい。何か質問は?」

 三十分ほどで終わった稽古の後、みやげの菓子を早速広げる駄目元たちの横で、俺は訊ねた。

 途中から緊張もほぐれ、わりと筋のいい手つきを見せてくれたかをるだったが、本人はいまいちわかっていないようで、首を傾げている。

「えーと……ごめんなさい。まだ何がなんだかわからなくて……」

「まあそうだろうな。いいよ、少しでも楽しいと思ってくれればそれで」

 肩を軽く叩いて言ってやると、また駄目元が後ろから口笛を吹いてくる。

「静ってば、やっさしー。やっぱ彼女には違うよなー」

「うるさい。まだそうと決まったわけじゃないんだから、あまり横からはやしたてるな」

「あっ、このやろ。どさくさに紛れて俺の菓子取り上げるなよー!」

 小学生並みに地団太を踏んだ駄目元に舌を出す俺。

 ついでにしびれた足を蹴飛ばしてやったら、香織があきれたように笑った。

「あーあ、見た? かをるちゃん。こいつらってこんなやつらなのよ。静だって、難しそうに見えても大したことないんだから。あんまり緊張しないで、気軽に付き合ってやって?」

「は、はあ……」

「そうそう。もし悩んだらいつでもあたしたちに相談して? 静ちゃんの行動パターンなら大体わかってるから。ねっ?」

 ハナコと香織に囲まれて、かをるは顔を赤くする、のかと思いきや、何かに耐え切れなくなったように目を閉じ、立ち上がったのだ。

「あっ、あのっ……今日はとっても楽しかったです! 教えてくださって、どうもありがとうございました! あたし、バイトが残ってるので、これで――」

「えっ、ちょっと? かをるちゃんっ?」

 引き止めるハナコたちに頭を下げ、パタパタと玄関先へ駆けていくかをる。

 今度は俺が何がなんだかわからなくなる番で、一瞬動けないでいると、駄目元が目配せをする。

「はやく追っかけて! どうしてかわかんないけど、かをるちゃんなんか気悪くしちゃったんじゃねえ?」

 何も怒らせるようなことをした覚えもなかったが、仕方なく俺はかをるの小さな足音を追いかけることにした。
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