抹茶な風に誘われて。
「おいっ! 待て――なんか、気に障るようなことがあったのか?」

 路地を曲がる前にすぐ追いついて、腕を取る。

 かをるは真っ赤な顔で首を振った。

「じゃあなんで……俺、こういうのって苦手なんだ。何か思うことがあるんなら、はっきり言ってくれ」

 蝉の鳴く声に混じって、かをるが小さく何か呟いた。

 聞き取れなくて顔を近づけたら、目の前でかをるのやわらかいポニーテールが揺れた。

「君、じゃなくて――お前、がいいですっ」

「――は?」

 つい眉を寄せたら、泣き出しそうな顔でかをるが俺を見上げる。

「茶道の先生としてじゃないんなら、付き合うってどういう意味ですか?」

 まっすぐな目線。震える声。頼りないのに気の強い、純粋な瞳が俺を貫く。

「私、ずっと考えてました。静さん、どういうつもりで誘ってくれたんだろうって。茶道を教えてくれるって言うんだから、生徒と先生の関係なんだろうって思うようにして――それでやっと勇気を出して来たんです。でも、そんなつもりじゃないって――私、期待しちゃいました。もしかしたら静さんも私のこと、って……」

 何も言えないでいる俺を見て、勘違いしたのか悲しげな顔でかをるは視線を落とした。

「そんな気がないなら、優しくしないでください。私みたいな子供は嫌だって――はっきりそう言ってください!」

「……かをる」

 驚きにもらした声で、かをるは口元を少しゆるめる。

「やっと、名前呼んでくれましたね。あの時――お前って呼んでくれて、私すごく嬉しかったんです。静さんとやっと近づけた気がして、認めてもらえた気がして……すごく。あれも嘘だったなら、単なるお遊びだったなら――もう私、静さんと会えません。だって、私は静さんが好き……こんなに好きになっちゃったんだもの!」
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