下宿屋まろん
「この辺にしておきましょう」
トヨコさんが言った時には、白い太陽はだいぶ傾いていた。
僕は、ゴシゴシとタオルで顔を拭いた。
ヘアピンがタオルの繊維に引っ掛かって取れた。
トヨコさんは笑って、腕を伸ばす。
「そんなにするから」
縦に長い爪が、ピカリと光る。
トヨコさんは、細くて黒い鉄の棒を丁寧に二つに割る。
僕の前髪をそっと左に寄せる。
指先は、さっきまで軍手を嵌めていたとは思えないほど、ひやりと冷たかった。