下宿屋まろん
次の日、女の人は赤くて小さな車に乗ってやってきた。
「荷物は後ろに積んで、こっち座って」
母は玄関先で心配そうに見ている。
「じゃあ姉さん、お預かりするわね」
「え、えぇ」
「大丈夫。携帯電話はあるし、車で30分よ。もしホームシックになったらちゃんと連れてくるから」
女の人は笑った。
今日はデニムのパンツに、真っ黄色のTシャツを来ている。
栗色の髪の毛が揺れて、まるで大きなヒマワリみたいだ。
「いってくる」
僕は母にちらっと目線を向けて頭を下げた。
「何かあったら、すぐに帰ってきていいからね」
母は僕の手を握った。
夏だというのに、ひんやりと冷たい手だ。
「いじめたりなんかしないわよー」
女の人が僕の背中をぱしんとはたく。
「じゃあ」
僕は言って、車に乗り込んだ。