下宿屋まろん
「私の事はトヨコさんって呼んでいいからね」
運転しながらトヨコさんは言った。
当たり障りない会話をしながら、車は住宅街を走る。
年齢の事を聞いたら、
「レディーに年齢を聞いちゃダメよ」
と言われて、それ以上話しはしなかった。
車が家の前を出発してきっかり30分。
着いたのは木造の、少し大きな2階建ての一軒家だった。
僕の腰ぐらいの高さの煉瓦塀の上から、たくさんの木が覗いている。
金属製の門の横に、「下宿屋まろん」と書かれた郵便受けがある。
門を通り抜け、芝生の合間にちらっと見える置き石を歩いて、白いドアを開ける。
チリンチリーンと音が鳴る。
見上げると喫茶店の様な鈴が上についていて、その横にはセコムのシールもついていた。