君の言葉を胸に
八節
ただいま8時30分。
あと30分で、松山さんが来る。
「恵介に彼女がねー。へー。彼女ねー」
姉の明(メイ)がやたらと絡んでくる。
こいつ、原和田に似てるな。
「兄ちゃんの彼女美人?美人?ね、美人!?」
弟の凛太(リンタ)まで絡んでくる。
うるさい家族だ。
「しかし、この無愛想な恵介に彼女ね~。なんて優しい彼女なのかしら」
失礼な母。
っつか、明も凛太も、母さんに似たんだな。
「もう9時だぞ。彼女さん、来ないな」
父さんが新聞を読みながら言う。
確かに、もうすぐ9時になるというのに…。
松山さんが時間を守らないはずはないし…。
電話してみるか。
『プルルルル…』
出ない………。
松山さんの家にも電話してみたが、誰も出なかった。
「……俺、松山さん家行ってくる」
「動物園はー?」
「先行ってて」
「うい」
俺は、家を飛び出した。
松山さん、大丈夫かな。
俺は走った。