君の言葉を胸に





「……誰、っだ…」


「…え?どうしたの、野村…」


「誰なんだ!」


頭が痛い。


俺は壁に寄りかかりながら座る。


「どうしたの、野村!私は紗菜だよ!」


違う違う違う。


彼女は“紗菜”じゃない。


誰だ、誰だ、誰だ―。


君は誰なんだ――。


「……松山さん」


彼女の声も笑い顔も、全部思い出せるのに。


名前だけが思い出せないなんて…。


「野村…大丈夫?」


紗菜は、悲しそうな顔をした。


なんで悲しそうな顔するんだよ…。


やめてくれ。


そんな顔、するな。


「なあ…」


紗菜は、顔を上げた。


「………松山さんって、誰だ……?」


一筋の涙が床に落ちた。





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