「愛してる」、その続きを君に
「じゃあ、楽しみにしてる。約束だからね、守ってよ」
おお、と声をたてて笑うと、信太郎の手が優しく頭の上に降ってきた。
「間違いなく連れてってやる」
「どうせ行くなら冬がいいな。空気が澄んでて綺麗なんでしょ」
夏海は彼の手の温かさを感じながら、ポツポツと光のちりばめられた小さな町の夜景を見下ろして言った。
彼女の大好きな海には、小さな漁船の明かりが季節外れの蛍のように、暗い海原に5つ6つ漂っているだけだ。
「言っとくけど、その時期はめちゃくちゃ寒いぞ、覚悟しとけよ」
「うん」
「でもその代わり、気絶しそうなくらい星が空から降ってくるから」
彼はまるでその場に思いをはせるように言う。
「晴れるように、今からてるてる坊主作っとけよ」
「早すぎ。まずは信ちゃんが入れる大学が見つかりますようにってお願いしておかないとね」
「おまえなぁ」
彼は指をくしゃくしゃと動かし、「俺だってやる時はやるんだって」と彼女の髪をもてあそぶ。
暗くて彼の表情はわからないが、苦笑い、といったところだろう。
ふいに手がゆっくりと夏海の頬に滑るように降りてくると、彼は両手で彼女の頬を包み込んだ。
「俺、今までおまえの事に関しては意地を張ってさ、後悔することが多かった。でももうそんなのやめる。正直な気持ちでおまえに向き合うことにする」
「正直な気持ち?」
「ああ」
「どんなの?言ってみて」
「今?」
「意地を張らないんでしょ?」
「そうだけど…ここで?」
信太郎は困ったように唇の端を歪めて笑うが、彼女には見えない。
夏海は自分の頬を包む彼の手にそっと手を重ね合わせた。
「ほら、早く言って」
しばらくの間をおいて、信太郎が意を決したように口を開いたのが、彼の息遣いでわかった。