「愛してる」、その続きを君に
夕食後、夏海が持ってきたプリンを食べながら、信太郎は食器を片付ける母親の背中に言った。
「俺、大学に行こうと思うんだけど」
一瞬彼女の動きが止まるも、何事もなかったかのように再び皿洗いに専念する。
「おいこら、無視すんなよ。今かなり重大発表をしたんだけど」
「え?」
天宮亜希子は水道を止めた。
「ごめん、空耳かと思って」
「空耳って…」
信太郎は底のカラメルソースをスプーンでかきまぜながら、苦笑した。
エプロンで軽く手を拭きながら、彼女は息子の前に座る。
「で、どこの大学に行くつもりなの?」
頬杖をつき、ニヤニヤしながら訊いてくる母親に信太郎は鼻を何度かすするとこう告げた。
「K大」
亜希子の顔が笑ったまま凍り付いた。
「ごめん、聞こえなかった。どこの大学受けるって?」
「だから、K大」
しばらくこの親子はテーブル越しに見つめ合った。
しきりに瞬く亜希子。
真剣な瞳で母を見る信太郎。
時計の針がちょうど21時を指すカチッという音に我に返ると、亜希子はあはは、とわざとらしい渇いた笑い声を発した。
「K大?これはまた大それたことを言うわね。今までろくに勉強してこなかったのに?もう、冗談ばっかり。親をからかうのはよしてよ」と手をひらひらさせる。
「ちょっとーお父さーん」
ちょうど風呂から上がってきた夫の研一に亜希子は息子の言葉をそのまま伝えた。
「ね、お父さんも思うでしょ?K大なんてあんな難しいところ無理よ」
うるさいな、と信太郎はふてくされた顔でスプーンを置いた。